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インバウンド対策の優先順位 — 多言語化より先にやることがあります

インバウンド対策の相談で最初に挙がるのは、たいてい「多言語のパンフレットを作りたい」です。しかし外国人客が実際につまずいているのは、翻訳がないことではありません。入ってよいのかが分からない、いくらか分からない、どう使うのか分からない——この三つです。優先順位を、費用対効果の順に整理します。

優先度1:店頭で「入ってよい」と分かること

欧米からの訪日客が最も頻繁に口にするのが、「入っていいのか分からなくて素通りした」です。日本の店舗は、外から中の様子が見えない、価格が表示されていない、営業しているかが分かりにくい、という三点が重なりがちです。

これは翻訳の問題ではありません。情報設計の問題です。費用のかからない対処から挙げます。

  • 価格帯を店頭に出す。 メニュー全体でなくて構いません。「Lunch from ¥1,200」の一行で、入店の判断ができます
  • 営業中であることを明示する。 OPEN の表示、または暖簾を出しているかどうかの意味を英語で補足する
  • 入口の作法を書く。 「Please order at the counter」「Seating by staff」の一行が、立ち止まる時間をなくします
  • 写真を使う。 翻訳より速く、翻訳より正確に伝わります

この四点は印刷費だけで実施でき、体感の効果が最も大きい施策です。

優先度2:キャッシュレス決済

現金しか使えない店を、欧米からの訪日客は選択肢から外します。ATMを探す時間を惜しむというより、「現金を持ち歩く習慣がない」という前提の違いです。特に英国と北欧からの客は、日常的にほぼ現金を使いません。

クレジットカード(タッチ決済含む)への対応が最優先で、QRコード決済はその次です。訪日客の多くは日本のQR決済アプリを持っていません。

優先度3:使い方・作法の説明

券売機、温泉、座敷、お通し、おしぼり、注文の呼び方。日本人にとって説明不要のものが、訪日客にとっては全部が判断を要する場面です。

特に誤解が生じやすいのがお通しです。注文していない料理が出てきて課金される仕組みは、欧米には存在しません。事前に一行の説明があるかないかで、会計時の印象がまったく変わります。「A small appetiser (¥400) is served with your first drink」と書いてあれば、それは文化として受け取られます。書いていなければ、不当請求として受け取られます。

タトゥーの可否、写真撮影の可否、持ち込みの可否も、事前に明示されているほうが親切です。曖昧にしておくほうが揉めます。

優先度4:オンラインでの発見可能性

訪日客の店選びは、日本人と経路が違います。Googleマップの英語レビュー、Instagram、そして近年はAIチャットへの質問が主な入口です。

  • Googleビジネスプロフィールの英語情報を整える。 営業時間、価格帯、写真、カテゴリー。無料で、最も効きます
  • 英語レビューに英語で返信する。 返信の有無は他の閲覧者に見られています
  • 自社サイトに英語ページを1枚置く。 何の店か、いくらか、どこか、予約は必要か。この4点だけで機能します

多言語パンフレットの印刷は、この後で構いません。

優先度5:免税対応

物販であれば免税店の許可取得は検討に値しますが、手続きと運用の負担があります。客単価と訪日客比率を見て判断してください。制度は改定されるため、最新の要件は国税庁の情報をご確認ください。

やらなくてよいこと

  • 全メニューの完璧な多言語化。 主要品目と価格、アレルゲンで十分です。完璧を目指すと着手が遅れます
  • 過度な「日本らしさ」の演出。 訪日客が評価しているのは日常です。観光地化された演出はむしろ敬遠されます
  • 多言語スタッフの常時配置。 表示と写真で解決できる場面がほとんどです

考え方の要点

インバウンド対策の本質は翻訳ではなく、「日本人が説明不要と思っている前提を、明示すること」です。前提の共有がない相手に対して、情報の不足は不親切ではなく不安として受け取られます。逆に言えば、一行の英語表示で解決する課題が驚くほど多くあります。

訪日前の「見え方」を確かめる

英国をはじめとする欧米の生活者に、施設やサービスの英語ページ・写真・価格提示を見せ、訪日前の段階でどう受け取られるかを確認する調査を承っています。観光・宿泊・飲食のインバウンド施策の事前検証にご利用いただけます。

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よくある質問

この記事に関して実際によくいただく質問です。

インバウンド対策は何から始めるべきですか?

店頭で「入ってよい」と分かる表示から始めるのが最も費用対効果が高い施策です。価格帯の一行表示、営業中であることの明示、入店時の作法の一行、写真の掲示。この四点は印刷費だけで実施でき、多言語パンフレットの制作より先に効果が出ます。

インバウンド対策で多言語化は必須ですか?

全面的な多言語化は必須ではありません。主要品目と価格、アレルゲン情報があれば実務上は足ります。むしろ優先すべきはGoogleビジネスプロフィールの英語情報の整備で、これは無料でありながら訪日客の店選びに最も強く影響します。

訪日外国人にとって現金のみの店は不利ですか?

明確に不利です。特に英国や北欧からの訪日客は日常的にほぼ現金を使わないため、現金のみの店は選択肢から外れます。クレジットカードのタッチ決済への対応が最優先で、日本のQRコード決済は訪日客がアプリを持っていないため優先度は下がります。

お通しは外国人客に説明すべきですか?

必ず説明してください。注文していない料理が出てきて課金される仕組みは欧米に存在せず、説明がない場合は不当請求として受け取られます。「最初のドリンクに小さな前菜(400円)が付きます」と英語で一行あるだけで、同じ仕組みが文化として受け取られます。

インバウンド向けに日本らしさを演出すべきですか?

過度な演出は逆効果になりやすい傾向があります。欧米からの訪日客が高く評価しているのは観光地化された体験ではなく日常の風景です。演出に費用をかけるより、価格の明示や使い方の説明といった情報の整備に投じるほうが満足度に直結します。